伊藤詩織さんの事件に関する一連の出来事まとめ

TBS記者の山田敬之氏がジャーナリストの伊藤詩織さんを強姦したとされる事件はみなさんもニュースで一度は目にしたことがあるはず。

最初の報道は2015年。未だ決着していない事件です。

この事件はただの強姦事件ではなく、日本の性犯罪に関する様々な問題に一石を投じた問題になっています。

  • 政治的な忖度?
  • デートレイプドラッグの使用
  • セカンドレイプ
  • 強姦被害者の権利の弱さ
  • 司法や国民の理解の低さ
  • 性犯罪に関する女性の立場の弱さ

伊藤詩織さん事件をシンプルにまとめてみた

https://www.dailyshincho.jp/article/2019/04220801/?photo=1

一体何が問題だったのか分かりにくくなってしまっているので、まとめてみました。

詳細にまとめると一冊の本ができあがってしまうので、シンプルに紹介しますが、ところどころで日本の性犯罪に対する考え方がいかに偏っているか、理解が足りていないのかがかいま見えるでしょう。

この事件を振り返えると、2人の言い分は食い違ってますが、伊藤詩織さんの意見や立場の方が自然で論理的に感じます。

山口氏の意見は、伊藤詩織さんに事件当時の記憶がないのをいいことに、責任逃れな発言をしているような印象です。

2015年 TBS記者だった山口氏から強姦される

伊藤詩織さんはアメリカでジャーナリストとして活躍する道を選び、TBSワシントン支局長だった山口氏にアドバイスを求めました。

山口氏から直接会って「先輩として仕事のアドバイスをしてあげる」と呼び出されます。

1軒目は居酒屋、2軒目に寿司屋に行き、食事とお酒を交えて仕事の話をしていたものと思われます。

寿司屋で伊藤詩織さんは酩酊状態になり、記憶がないままタクシーに乗せられ、山口氏の宿泊しているホテルへ連れて行かれました。

伊藤詩織さんが目を覚ましたときにはコンドームをつけていない山口氏が上に覆いかぶさり、セックスの最中だったとのこと。

伊藤詩織さんの下着からは山口氏のDNAが検出されており、避妊具をつけずに行為に及んだことは山口氏本人も認めています。

伊藤詩織さんが刑事告発・被害届を提出

伊藤詩織さんは山口氏を刑事告発、強姦事件として被害届を提出しました。

刑事告訴状は受理され、捜査の結果、裁判所から準強姦容疑で逮捕状が発布されました。

なぜか逮捕状が取り消しになる

山口氏が日本に帰国したタイミングで逮捕となる予定でしたが、異例の逮捕状の取り消しにより、山口氏が逮捕されることはありませんでした。

当時の警視庁刑事部長である中村氏が「(逮捕は必要ないと)私が裁決した」と認めています。逮捕直前にもかかわらず逮捕されなかったことは異例中の異例で、さまざまな憶測が飛び交いました。

TBS記者の山口氏が安倍首相に近い人物だったこともあり、政治的な圧力で逮捕が取り消しになったとも言われていますが、真相は分かりません。

あるいは山口氏が警察幹部と深いつながりがあり、逮捕が取り消しになったのではないかとも考えられます。

その後も準強姦の疑いで書類送検され捜査が仕切り直しになりました。

2016年 山口氏が嫌疑不十分で不起訴となる

事件発生から約1年。一度は逮捕状が発布されたのにもかかわらず、山口氏の行為が嫌疑不十分で不起訴となりました。

それを受けて翌年5月に検察審査会に申立したものの不起訴相当となり、証拠不十分との議決が下されました。

これまでの伊藤詩織さんの苦悩や苦痛、そして検察とのやりとりなどを暴露した「ブラックボックス」を出版。

2019年2月に山口氏が名誉毀損として伊藤詩織さんに損害賠償を請求

伊藤詩織さんが出版した暴露本の内容が山口氏のプライバシーを侵害したとして、1億3000万円の損害賠償請求をしました。

もともと伊藤詩織さんがTBSのワシントン支局長の立場に乗じて就職斡旋をチラつかせレイプしたとして、山口氏に1100万円の損害賠償を請求していましたので、10倍返しの反訴となり、この問題は泥沼化していきます。

2019年12月 伊藤詩織さん 勝訴

12月18日、東京地方裁判所は元TBS記者の山口敬之氏による合意なき性行為を真実だと認め、ジャーナリストの伊藤詩織さんが民事裁判に勝訴した。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon

伊藤詩織さんが被害にあわれてから4年がたち、ついに勝訴を勝ち取ります。

損害賠償額は300万円で、伊藤詩織さんが受けた苦痛や苦悩の日々の長さを考えると足りない気がしますが、一度は取り下げられた逮捕状から再び罪として認められたという点は大きな進展だと言えそうです。

しかしその翌日、伊藤詩織さんの勝訴をうけて、山口氏は事実無根として控訴の姿勢を見せます。

まだまだこの問題は解決しそうにはありません。

伊藤詩織さんが強姦被害を訴えた後のセカンドレイプがひどい

伊藤詩織さんが強姦被害を受け、刑事告発して全国ニュースになると、様々な憶測が飛び交います。

政治的な思惑などもささやかれ、執拗で下劣な『セカンドレイプ』が横行してしまったことも注目されました。

憶測でしかない状況で、伊藤詩織さんは多くの心ないコメントや批判の的になり、日本にいられなくなってしまったのです。

安倍総理を失脚させるためのハニートラップ説

山口氏は安倍総理に近いTBS記者だったことから、野党が放ったハニートラップだったのではないかとの噂が広まりました。

森友学園問題や加計学園問題など、国政とは関係のないスキャンダルで長期間にわたって国会を空転させた野党が懲りずに、あの手この手で安倍総理のイメージダウンのために野党が差し向けたのではないかという憶測は、右派を中心に広がりました。

初期のニュースも「官邸御用達記者の山口氏が美人ジャーナリストをレイプ」といった見出しがつけられていることから、最初から政治色の強いニュースとして取り扱われたのです。

しかし、伊藤詩織さんが個人の意思で山口氏に近づき、強姦被害をでっちあげたというこの説は、どれほど伊藤詩織さんを傷つけたのか想像もつきません。

  • 賠償金目当て?
  • ジャーナリストとしての売名行為?
  • 盤石の安倍政権を瓦解させるクサビとして?

被害直前の伊藤詩織さんはアメリカの職場の内定をもらっていたり、山口氏とは渡米前の最終調整の段階だったことから、伊藤詩織さんがハニートラップをするメリットがほとんどありません。

そして酩酊状態でハニートラップができたかというと疑問です。

中立的に見ても伊藤詩織さんがハニートラップをしかけたという見方は悪質なデマと言わざるを得ません。

不当な批判や暴言、脅迫で日本にいられなくなりロンドンへ移住

山口氏と安倍総理との関係が報道されると右派メディアだけではなく、テレビのコメンテーターも伊藤詩織さんがハニートラップをしかけたのではないかと予測して、大バッシングを受けました。

一方的な被害者であるはずの伊藤詩織さんが加害者側の人間関係が原因で、あらぬ噂を立てられたり、事実無根の暴言を吐かれる事態になってしまいます。

脅迫などもあり、日本に住み続けるのが困難になってしまった伊藤詩織さんはロンドンへ移住することになりました。

移住先のロンドンでテレビ出演した際、強姦事件とは全く関係のない会話のやり取りで笑顔になっている画像を切り取って

  • 強姦をこんなに楽しそうに話す女はいない
  • やっぱりこの女は嘘をついている

どこまでも伊藤詩織さんの名誉を貶めようとする日本のネット社会の闇が世界中に拡散されました。

海外で日本の性犯罪の意識の低さが報道される

BBCドキュメンタリーに出演した伊藤詩織さん

伊藤詩織さんの事件はちょうど#MeToo運動が世界的に盛り上がっていた時期と重なります。

海外メディアもその潮流の中で日本で起きた卑劣な強姦犯罪を報道しました。

イギリスのBBC、フランスのフィガロ紙、イタリアのコリエッレ・デラ・セーラ紙など欧米の主要メディアが紙面と動画で大きく取り上げられます。

その中でもニューヨークタイムス紙は加害者である山口氏に直撃し、世界的な女性の人権を守るための潮流に真っ向から逆らうようなコメントを引出しました。

性的暴行はなかった。あの夜に犯罪行為はなかった

彼女が自分をコントロールできていたら何も起きなかった

山口氏はこう口にしたのです。

「どんな経緯であれ性行為をするのは間違っていた」と語ってはいたものの、その原因を伊藤詩織さんに求めた山口氏の発言は世界中で軽蔑されるものとなりました。

この事件で一度発布された逮捕状が取り消され、再捜査では不起訴となり、ここまで事件が長引いている状況と合わせて、ニューヨークタイムス紙は慶應大学生6名による集団準強姦事件で不起訴処分になったことや、千葉大学での強姦事件と東京大学での集団強制わいせつ事件で被告らに執行猶予がついたことを紹介しています。

日本の司法制度が欧米先進国に比べて、性犯罪被害者に厳しく、加害者に優しい状況にあることが世界中に知れ渡るところとなりました。

また、ニュース後のセカンドレイプも日本社会の中にはびこる

女がしっかりしていれば大丈夫だった

どうせ色目を使ったんだろう

旗色が悪くなると被害者ぶるんだから女は楽でいいよな

こんな意見を未だ目にする日本は、司法制度とともに国民感情、国民の認識、世論形成の面でも性犯罪に対して厳しい目を向けているとは思えません。

日本の性犯罪裁判では女性の落ち度が裁かれる

日本の性犯罪の被害者の9割以上が女性です。

そして日本の警察官の9割以上が男性で、検察や裁判官の8割以上が男性です。

つまり性犯罪の被害者はほぼ女性なのに、男性目線によって裁定されます。

その流れの中で、性犯罪の裁判では女性の落ち度がなかったかが男性の罪の重さに直結します。

  • 男性と性的な会話をしたか
  • 女性的な服装をしていなかったか
  • 女性に警戒心はあったか

女性の言動も服装も警戒心も、強姦された原因にされるべきではありません。

たとえ性的な会話をして、露出の多い服を来ていて、男性の家に1人で上がり込んだとしても強姦は許されない卑劣な犯罪ですし、女性に落ち度はなにもないはずです。

ところが、日本の司法では男性的な見方によって、加害者よりも被害者の言動が大きく注目されてしまうのです。

被害者であるはずの女性が思い出したくもない過去を細かく話す必要がある裁判では、たくさんの傷口をえぐられるような痛みがあるでしょう。

しかも、自分の落ち度をみられてしまったり、検察や裁判員、相手の弁護士などから心ない言葉をかけられてしまうこともあります。

こうした現実がある限り、女性が日本の司法を期待して泣き寝入りせずに訴える気にはならないでしょう。

伊藤詩織さんはデートレイプドラッグの被害にあったのか

伊藤詩織さんの事件がニュースになった少し前からデートレイプドラッグによる強姦被害が多く報道されるようになっていたこともあり、この事件はデートレイプドラッグの危険性を再認識させるきっかけになりました。

伊藤詩織さんはデートレイプドラッグの被害にあったのか。

伊藤沙織さんの証言をまとめるとこのようになります。

  • 2軒目の寿司屋でトイレにたってからの記憶がない
  • ホテルで嘔吐した
  • 性行為中に「痛い」「やめて」と拒否の意思を伝えた

寿司屋からホテルへ向かうタクシーでも嘔吐したと山口氏が証言しています。

ホテルのドアマンの証言によると

  • 伊藤詩織さんを下ろすとき、腕を掴んで降ろそうとしていた
  • 泣き叫んでいた
  • 近くの駅で降ろしてと言っていた
  • 客観的に見て、自分の意思でホテルに来たわけではないことがすぐに分かった

デートレイプドラッグの被害が疑われるのが、トイレにたった後に記憶をなくしていることと、意識が戻ったのがセックスの最中だというところ。

伊藤詩織さんはホステスの経験があり、お酒との付き合い方は熟知しているはず。

そんな伊藤詩織さんが複数回、嘔吐するまで飲み続けるというのも不自然です。

飲みすぎて記憶をなくす方は確かにいますが、もしかしたら抗酒剤などお酒を分解する酵素の働きを弱めて悪酔させる薬が使われた可能性があります。

いずれにせよ、強力な睡眠剤などのデートレイプドラッグが使われた場合、毛髪鑑定でも分かることではありますが、今のところ不明です。

もしかしたら、同業の大先輩であり尊敬していた山口氏のお酒を断れずに自分の限界をも超えてお酒を飲ませ続けられた可能性もあります。その場合はデートレイプドラッグとは関係なくなってしまいますが、明らかなアルコールハラスメントですね。

伊藤詩織さんの事件から女性が学びたいこと

自分のキャリアアップのためにアメリカでジャーナリストとして活躍したいと思い、尊敬する大先輩に強姦され夢潰えた伊藤詩織さんの無念、そして刑事告訴後の激しいセカンドレイプの数々。

それでも負けずに戦い続けている伊藤詩織さんは尊敬の念を禁じ得ません。

伊藤詩織さん自身も強姦被害にあってから、しばらくは誰にも相談できず、警察にもすぐに被害を届けていないそうです。

被害届を出してからは日本の性犯罪に対する理解の低さゆえに、数々の苦難と苦悶の日々を送られてきたことでしょう。

そんな伊藤詩織さんの姿を見ていると、もし自分が被害にあってしまったら、同じことができるだろうかと自問自答したとき、「そんなこと辛すぎてできない」と思われるのが普通かもしれません。

ですが、伊藤詩織さんは日本の性犯罪に対する考え方、男性主体の政治、司法、報道を変えるかもしれない一石を投じたように思います。

勝訴を勝ち取り、十分な賠償命令が下されたとは言い難いものの、伊藤詩織さんの権利と主張が一部でも認められ、それが大きくニュースで取り上げられたことは大きな成果だと言えるかもしれません。

私たち女性のほとんどは被害を受ける側です。

伊藤詩織さんも最初は1人で打ちひしがれていた弱い女性だったのです。

そこからの彼女の強さほどではなくても、周りの友人や家族に打ち明け、しかるべき支援を受ければ加害者だけが得をし、被害者だけが損をする理不尽な状況をきっと変えられるでしょう。